実際に見た夢をワールドとして表現する──『故郷をさがす三姉妹』制作記録

この記事ではclusterクリエイター・よるのあとちさんが公開したワールド『故郷をさがす三姉妹』の発想源や模型を3Dスキャンした制作過程が綴られています。
自分の感じた世界をワールドとして表現していく過程が垣間見え、読み応えのある記事となっています。

実際に見た夢をもとにした3個目のワールドを公開しました。

故郷をさがす三姉妹|よるのあとち

何かに追われ、故郷を探しながら、屋台の街をさ迷う三姉妹の夢。

夢の世界の現実とは異なる特殊な場所感覚を表現したいという思いからこのワールドを作りました。この夢以外にも、夢の中の駅から電車に乗って、自分が眠っている現実の街へ帰ろうとする夢も見たことがあります。そうした夢を見て、睡眠中の感覚から想起されるイメージの世界から、自分が眠っていると知っている現実世界の意識へとメタ的な意識そのものが移動しようとしているのではないかと考えるようになりました。

「故郷をさがす三姉妹」の夢にはそもそも自分が登場せず、三姉妹の末っ子を主人公とした物語を見ているようでした。
レトロポップな屋台の街の中に三姉妹の故郷である月夜町も存在すると思われました。しかし、末っ子が非常口を見つけて砂漠の小屋に辿り着き、衝撃的な世界の秘密を発見します。
その秘密とは、「さっきまでいた屋台の街も二人の姉も、本物をコピーして作られた仮想の存在で、もうこの世にはいない」「この世界では本物の存在はすでに失われてしまい、一つもない」というものです。実際の夢では、これは末っ子が直感的に理解したことで、視覚や聴覚から得られた情報ではありませんでした。だから、Steam版とcluster版では異なる方法でこのことを表現してみようと試みました。

「本物をコピーして作られた仮想の存在」というのは、「本物」を「現実に存在する物質」だとすると、模型を3Dスキャンしてデータに置き換えたものに相当します。すると、バーチャル世界に「本物の街はない」と言うことができます。しかし、そこまではプレイヤーにとって当たり前の事実で、夢の中で感じたような衝撃は受けません。現実のことを完全に忘れてしまう夢とは違い、VRをやっているときに自分がVRの世界にいるという事実を忘れることはないからです。

clusterには、アバターの姿が写るミラーがあります。それを末っ子が出てきた砂漠の小屋の前面に設置しました。砂漠の小屋のそばに落ちている月夜町の標識を拾うと、ミラーにPCのデスクトップ画面が重なり、自分を含む砂漠の風景がデスクトップ壁紙のように見えます。そのことによって、「自分自身」までがコンピュータ内の仮想存在だったことに気づく、という演出を考えました。

月夜町の標識を持ったまま移動すると、デスクトップ上のマウスカーソルが追従し、「こきょう」フォルダを開くことができます。すると、ポップアップが表示され、「月夜町」フォルダが出現します。探していた「月夜町」は実はデータだったと判明します。

VRでは視覚的に「ここ」にいると同時に別の世界にいることが可能となります。それは眠っているとき、ベッドの上にいると同時に夢の世界にいる状態と近いと思います。夢の中では、視覚にとどまらず、意識体験として別の世界にいることが可能です。自分のいる場所がどこなのかわからなくなってしまう迷子のような感覚。それに近い体験をcluster上でも作り出せたら面白いなと思いました。

ワールドの制作技法

今回は少しワールドの作り方の紹介もしようと思います。
私が取り入れている技法は模型を3Dスキャンする方法です。

模型はビーズやシールや粘土を使ったり、お菓子の箱にガムテープを貼ったりして作りました。

現在はipadproで3Dスキャンしていますが、この模型は大学生の頃、SCANN3DというAndroidのアプリで3Dスキャンしました。ipadの場合は360度対象の周囲を回るだけでスキャンできますが、SCANN3Dの場合、対象の四方を白壁で囲み、1枚ずつ撮影するので時間がかかりました。他のものを映さないような撮影部屋はなかったので、壁とホワイトボード2枚で遮って、撮影するたびホワイトボードを移動しました。手間はかかりましたが、ipadの3Dスキャンアプリは部屋全体を大雑把にスキャンするのに適したものが多い印象なので、SCANN3Dのここまで小さい模型を細部までスキャンできる点は素晴らしいと思います。

スキャンした模型はMayaでリトポロジーして頂点数を減らし、NormalとDiffuseのテクスチャベイクし直しました。Steam版を作った頃はこれができることを知らなかったので、画像左のデータをそのままゲームに使っていました。

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BOOTHにショップを開設しました。

【VRMモデルについて】
今回再現した夢に出てきた三姉妹の末っ子をVroid Studioで制作しました。

【シェーダーについて】
ワールド内でプールに使用しています。clusterが対応しているbuilt-in環境で使用できる水(コースティクス)シェーダーが見当たらなかったため、Amplify Shader Editorで自作しました。シェーダーに詳しいわけではないので、私のようにとりあえずすぐ使えるものを探している方向けです。色、透明度、コースティクスのサイズなどが変更できます。

故郷をさがす三姉妹|よるのあとち

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