料理、手芸、小説……「つくることが好き」からワールド制作へ──ワールドクラフト部門大賞受賞者・メタらいおんさんインタビュー

先月開催された「ClusterGAMEJAM 2022 in SPRING」。今回のGAMEJAMから「ワールドクラフト部門」「アート部門」が新設され、ゲーム以外の観点でも審査が行われるようになりました。

クリエイターのさまざまな技術が結集した「ワールド」。ゲームだけではなく色々な形での表現がされる中で今回は「ワールドクラフト部門」の大賞を受賞されたメタらいおんさんにお話を伺います。

2022年2月にclusterに実装された「ワールドクラフト」ではスマホ・PC・VRどの端末からでもcluster内でアイテムを組み合わせてワールドを制作することができます。
その機能を活用して制作された受賞ワールド「その生涯を駆け抜けろ」は限られたアイテムで、ある人の人生のさまざまなシーンを表現したワールド。

自分が進むことで誰かの人生を追体験できる、立体的なアルバムのような世界は読み込めば読み込むほど色々な解釈ができるワールドになっています。ぜひインタビューを読む前に体験してみてください。

受賞ワールド「その生涯を駆け抜けろ」にて

料理、手芸……「つくることが好き」からワールド制作へ

──普段はどういうことをされていますか?

clusterでは一人で自由に話題のワールドを歩き回ったり、フレンドと会ったら適当に遊んだりという感じなんですけど、リアル事情で長い時間ログインするのが難しいので、基本的には一人でワールド探索しているという感じですね。

──clusterをはじめたのはいつごろだったのでしょうか?

今年に入ってからです。何ヶ月か前か忘れてしまったのですけど、『ノーゲーム・ノーライフ』というライトノベルの作家の榎宮祐さんという方がいらっしゃって、その作家さんがメタバースを楽しんでいるのを見て気になっていたんです。
ちょうどニュースでも「メタバース」という単語が出てきていたので「自分も行ってみようかな」と思って、始めました。

──最初からワールドをつくろうなどは考えていたのでしょうか?

そうですね。「自分の何かを自由に表現できる場である」ということが気になってはじめたという面もありました。
リアルでは料理や手芸、ハンドメイドアクセサリーなど「つくること」がすごい好きなんです。むしろ何かつくってないと落ち着かないくらいで、なんでも手を出しちゃうんですよね。 それの延長線上でワールドづくりに興味が出たというのはあるかもしれません。

ただ、家の環境的にパソコンの前にずっと座るのが難しいんです。なのでこのインタビューも、iPhoneでお話させていただいています。
だからこそ、ワールドクラフトが「iPhoneからでも簡単に誰でもできる」というのはすごい衝撃的でした。「じゃあ、ベッドの上でゴロゴロしながらワールドつくっちゃっていいの!?」と思って。実際ベッドの上でゴロゴロしながらつくったり、料理を煮込んでいる最中にちょっといじったりとかできて、それがすごいありがたいですね。

「作品を完成させること」が勉強のモチベーションに──GAMEJAMへの初参加

──GAMEJAMに参加してみてどうでしたか?

楽しかったです。実はUnityやblenderにも挑戦してみようと、動画見たりと手を出し始めていた時期だったので、いい勉強のきっかけになりました。

「もしUnityで完成しなくてもワールドクラフトの方でやっておけば大丈夫」という風に気軽に参加してみようかなと思ったので、ワールドクラフトの登場は「参加しよう」と思うハードルを下げてくれましたね。

──こういう形のコンテストに参加するのははじめてなのでしょうか、どういうところが楽しかったですか?

はじめてですね。
参加するまではワールド制作はなんとなく触ってて「面白いな」「これで何かつくれたらいいな」と思っていただけで、完成を目指すというか作品としてつくり上げることはできていなかったんです。ワールドクラフトでも街みたいなものをつくってみたんですけど、結局いまだに完成していなくて。完成させる気もあまりないんですけど(笑)

だからこそ、ちゃんと締め切りがあって「この時間内にゲームとしてひとつつくってください」という形のGAMEJAMは、完成までの間に色々と考えながら勉強できたという感じで楽しかったです。

──なるほど。「完成させる」というのはなかなか難しいですもんね。今回のワールドはどういうところから発想したのでしょうか?

今回のGAMEJAMのテーマである「かける」を見た時に色々な「かける」を思いついたんですけど、その中でワールドのタイトルにもある「駆け抜けろ」の「駆ける」をコンセプトにしようと考えました。
それこそ「駆ける」をテーマにしたワールドはいっぱいあったと思うんですけど、どうせ「駆ける」にするならスピード感のあるものをつくりたいなと思って、ワールドをつくりはじめました。

ただワールドクラフトで「速さ」「スピード感」のあるものをつくるのは結構難しい。そこで思いついたのが「長い空間を真っ直ぐ走っていく形式だったら、なんとなくスピード感が出るんじゃないか」というアイデアです。そこから「生涯を駆け抜ける」というコンセプトが出てきて、肉付けしていったという感じです。

──なるほど。真っ直ぐ進んでいくとワールドクラフトで表現された色々なシーンが現れる体験が印象的でした。この表現が適切かは分かりませんが…「走馬灯」のようなものを思い出しました。

それに近い気がしますね。その人の人生のダイジェストだけを切り取ってみたいな感じだと思います。

──このワールドのように「コンセプトを立てて作品をつくる」経験はあったのでしょうか?

小説を書くのは結構好きで、設定をメモしたりとか途中まで書いたことはあったんですけど、完成させたことはなくて。そういう経験が活きたという面はあるかもしれないですね。

限られたオブジェクトでいかに表現するか

──もう少し受賞ワールドについて詳しく伺えればと思います。このワールドのこだわりの部分はどういうところですか?

私は何でもかんでもやりすぎちゃう傾向があって。自分の人生でも何かつくる時も、突き抜けすぎちゃって、結果として蛇足になっちゃうんですよね。

ただ今回そうやってやりすぎちゃうと、情報が多すぎて結局何のワールドなのかわからなくなってしまう。
このワールドはとにかく「誰か一人の人生」であることが伝わらないと意味ないじゃないですか。なので今回は「とにかくやりすぎないように」「選別して削ること」にとにかくこだわりました。

──なるほど。GAMEJAMの時点ではまだアイテム数が少なかったワールドクラフトでは、少ないオブジェクトでいかに表現するかは良い手法なのかもしれませんね。

そうですね。そういう点で言うと若干ネタバレになっちゃうかもしれないんですけど、花の配置は見て欲しいポイントです。

今回のワールドはスケボーが男の子で、バスケットボールが女の子を表しているんですけど、その二人がはじめて一緒のベンチに座っているところには花がいっぱいあります。この花は喜びを表しているんです。その後のシーンでも、人生の中の嬉しい場面に花を登場させるという風にしています。

──ひとつひとつのオブジェクトに意味が込められているんですね…!

Youtubeの配信でワールドにきてくださっていた人がいて、色々なところに気づいてくださっていたんですけど、花の意味に気付いてはなかったようでしたので、やっぱり難しかったのかなと思いました。ただ、そこはこだわったところですね。

──一番苦労した部分はどういうところでしょうか?

やっぱり情報量を削るのが一番大変でした。

あとはワールドクラフトのアイテムがまだ少なかったので、いかに表現に落とし込むかですね。逆に「あのアイテムはここに使える」とか楽しいところではあったんですけどね。
特に「受験で合格した」というシーンがあるんですけど、そのシーンで「発表の掲示板のここに丸があったんだぞ」みたいなのをどうやって表現するかがすごい悩ましくて。そこが一番長く考えたところだったかもしれません。最後は花を置くことで合格っぽい表現にしましたね。

色々なワールドに影響を受けて、ワールド制作に繋げる

──限られた要素でいかに表現するかがかなり考えられているんですね。このワールドを制作されるときに参考にしたものはあるのでしょうか?

ノベルゲームなどは意識していましたね。ノベルゲームはクリックしていけば見れるのがメインじゃないですか。そういう感じにできるように意識してた面はあります。

また、かわしぃさんの「勇者の記憶」というワールドがあって、そのワールドは自分が進むことによってどんどん物語が分かっていくという形式だったのですが、今思えばそれに影響を受けているのだと思います。
あとは、るーしっど(Lucid)さんの「魔女ルシエルちゃんの隠し部屋 ~ Luciel’s secret room ~」も影響を受けていますし、おすすめですね。

勇者の記憶かわしぃ
魔女ルシエルちゃんの隠し部屋 ~ Luciel’s secret room ~るーしっど(Lucid)

──なるほど。他のクリエイターさんのワールドに影響を受けた面もあるんですね。最初に色々ワールドを巡られているとおっしゃっていましたが、メタらいおんさん視点でおすすめのワールドなどあるのでしょうか?

いっぱいあるんですよね(笑)
今回のGAMEJAMでは「タッグクライマー【協力型アスレチック】」や「星々の還る場所」はすごいいいなと思いました。
私は作者さんの世界観が垣間見えるワールドが大好きで、RECO(リコ)さんの「Crescent Moon」も好きですね。以前、ご本人に案内してもらっちゃったんですけど、本当に綺麗ですよね。

タッグクライマー【協力型アスレチック】」ぐだぐだぶとん
星々の還る場所」しらゆり放送部。制作者の白百合めしべさんのインタビューをこちらで読むことができます。
Crescent MoonRECO(リコ)

──ワールドから影響を受けて新しいワールドがつくられる流れはすごくいいなと思いました。
今後つくってみたいものはありますか?

いっぱいあるんですよね。今つくっているのが物語だけどアート的な感じの綺麗なワールドなんですけど、Unityでつまずいてます(笑)乗り越えると楽しいんでしょうけどね。

──Unityは難しいですからね……Creators Guideでもサポートできるように頑張っていきたいと思っています。最後に、今後clusterに期待していることなどはありますか?

まだまだ妄想なんですけど、ショッピングモール的なものをいつかつくりたいなと思ってて、自由に金銭のやり取りができる仕組みができたらいいなと思っています。

──「バーチャル経済圏」を目指すには必須の要素ですね。今後、その辺りもできるようにアップデートしていきたいと思います。今日はありがとうございました!

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