先月開催された「ClusterGAMEJAM 2022 in SPRING」。今回のGAMEJAMから「アート部門」「ワールドクラフト部門」が新設され、ゲーム以外の観点でも審査が行われるようになりました。
クリエイターのさまざまな技術が結集した「ワールド」。ゲームだけではなく色々な形での表現がされる中で今回は「アート部門」の大賞を受賞された白百合めしべさんにお話を伺います。
受賞ワールド「星々の還る場所」は星空が美しい、闇夜の水上に1台のピアノ。そこからピアノの演奏と共に空間を使った美しい表現の数々を見ることができる幻想的なワールドです。
スマートフォンからでも体験できるので、ぜひインタビューを読む前に体験してみてください。

VシンガーのMV制作からバーチャルライブの演出まで
──普段はどういうことをされていますか?
普段はVシンガーさんのMVをつくったりなどをしています。配信用のアプリもつくっていたりするのですけど、そちらはあまり表には出てないですね。
──バーチャルライブの演出なども担当されていますよね。普段はclusterをメインの活動の場にしているのでしょうか?
そうですね。ただ元々そんなにclusterを使っていたというわけではなくて、他のプラットフォームを使っていました。その時に視聴者のアンケートを結構取っていた時があったんですけど、そもそもパソコンを持ってないという人が結構多くて。そんな時にclusterがスマホ対応したと聞いて、間口が一気に広がったので「これはいいな」と思ってclusterで活動するようになりました。

──バーチャルライブも面白いのですが、白百合さんがつくられたワールド「studio ray」を「Without Crying」という現実でも活動されているアーティストさんがイベント会場として利用しているのは面白いなと思っていました。
「studio ray」を気に入ってもらっているのか分からないですけど、使い続けていただいているのは嬉しいですね。
私的には「他にもワールド作者さんがいっぱいいて良いワールドいっぱいあるので、そういう人のワールドを使ってもいいですよ」ということを言ってはいるんですけど(笑)
──現実でもライブなどされている方だと、あれくらいのサイズ感が使いやすいのかもしれないですね。
動画主体のライブをされているので、あの空間と相性が良いのかもしれません。今後活動をしていくうちにアバターを着てライブするということもあり得そうな気がしていて、そうなってくるとまた変わってくるのかなと思いますね。
「ゲーム以外でも評価される」が参加のきっかけに
──これまで白百合さんはGAMEJAMに参加されていなかったと思うんですけど、今回GAMEJAMに参加しようと思ったのはどうしてでしょうか?
いや実は参加しているんですよ。初回に参加したんですけど、思いっきりCCKのバグを踏んでしまって完成に至らない、というすごいトラウマができてから毎回「参加どうしようかな」という感じになっていて…(笑)
また、いつもイベントが他のスケジュールと被っていて参加できないことが多かったので、今回はたまたま空いてたというのもありますね。

──アート部門が新設されたから参加を決めた、というところもあったのでしょうか?
アート部門ができたというか「ゲーム以外でも評価しますよ」というのは大きかったですね。というのもやっぱりゲームって考えるのが大変で、普段からゲームを考える脳みたいなのがある人の方が絶対いいのができると思っているので、そこで勝負したところで勝てない。なので、これまではGAMEJAMに参加しようかなという気持ちは低めでしたね。
──それでいうと、白百合さんが普段はライブの演出などをつくられているので、それを活かすならアート部門がうってつけだったというわけですね。
そうですね。ゲーム一色になるのもそれはそれで偏っちゃうので、やっぱり色々な価値観があるのがいいのかなと思いますね。

星空、揺れる水面、霧を表現するための工夫
──今回大賞を受賞されたワールドは、ピアノの演奏と共に空間表現を楽しむというワールドだと思うんですけど、このアイデアはどういうところから発想されたのでしょうか?
実はまだ発表していない音楽ステージがありまして、それ向けにつくっていた素材を使ったのがあのワールドですね。
──それ言ってしまっていいんですか?(笑)
いずれどっかで似たような素材のワールドができたなとかステージできたなというのが出てくるとは思うんですけど、それが一部先行公開されたみたいに思ってもらえれば(笑)
──そのステージ自体はどういうコンセプトでつくられていたんですか?
コンセプトは「星空の下で歌をみんなで鑑賞する」だったので、まさにワールド通りです。
ただ、今後使う予定が特に決まっていたわけではなくて、色々技術的な話含めて単純にこういうワールドをちょっとテストしてみたいなというのがあってつくっていただけなんですけど。今後はピアノでも歌い手の人でも、色々な人に使って欲しいなと思いますね。
──「studio ray」のような形で誰かがイベントに使うということもあり得るということですね。
そうですね。使ってもらえると嬉しいです。
──このワールドのこだわりのポイントはどういうところですか?
星空のSkyboxに関しては、私がGitHubに公開しているツールを使ってつくったSkyboxなのでオンリーワンなものになっています。
ツールとしては既存のSkyboxにUnity上で変更を加えて、それをキャプチャしてSkyboxとして使えるようにするというものなので、今回は無料で公開されているSkyboxとアセットを使ってプロシージャルに生成したSkyboxを組み合わせてお気に入りの星空を半分自作でつくったという感じですね。

──やはり今回のポイントは星空なんですね。
GitHubにあるツールを使ってもらえば誰でもつくれるので、みんな使ってみてください(笑)
──特に注目して欲しいポイントなどはありますか?
揺れる水面の表現ですね。
これはCreators Guideにも書いたCCKのmirrorを使っているんですけど、プラスして揺れて見えるようにシェーダーをつくって、使っています。この水面は近場は揺れないんですけど、遠くの方が揺れているように見えるようにしています。というのも近場がゆらゆら揺れちゃうと実在感がなくなっちゃうというのがあって、近くだけは揺れないようにして、シルエットが綺麗に水面に反映されるような仕組みにしています。

──なるほど!近くと遠くで見え方が変わるというのは気づいてませんでした。個人的には霧の表現もいいなと思っていました。シェーダーでその見た目をつくっているんですね……
霧も専用のシェーダーを組んでいて、ソフトな感じになるような見た目に仕上がっています。シェーダーを知っておくと色々細かい表現ができますね。
ただ「そこまでやっているんだ」とあまり気付かれることが少ないので、悲しいです(笑)

──自然な見た目をつくるためのシェーダーなので完成したら逆に注目されなくなって、ジレンマがありますね(笑)
ワールドをつくる時に何か参照したものはあったのでしょうか?
Pinterestでイラストやカメラマンを通して切り取られた現実の星空とかの写真を集めて「こういう見せ方あるんだな」「自分の中でここは良い」「悪い」「これ好きだな」みたいなのを結構な枚数を集めて、それを参考にしながらつくるみたいな感じですね。
──写真とかが多いんですか?
場合によりますね。たとえばバーチャルライブの演出はオリジナルの曲のMVを見てつくることが多いです。MVのイメージをそのまま再現するのがファンの人からしたら、オリジナルのMVの中に入り込んだような感じになって嬉しいんじゃないかなというのがあって、バーチャルライブの場合はオリジナルのMVを見るようにしていますね。
ビジュアルはつくってみないと分からない
──制作の中で苦労したポイントはありますか?
時間の短さですね。今回のGAMEJAMでは一日目はゲームをつくってたんですけど「どう考えても完成しないな」と分かってから(笑)方向転換したので、既存のものでつくれないかと考えてつくったんですよね。そういう意味で時間が厳しかったですね。
──ということは実質24時間くらいでつくられたんですね。
そうですね。あと演奏の最後の部分で花が咲くんですけど、これは花1枚1枚に4つのボーンが入っていて、それの花びらが15〜20枚くらいあるので、それのウエイトをつけるのがめんどくさかったです(笑)

──それは大変そうですね…(笑)
ビジュアルってつくってみないと分からないじゃないですか。
つくってみて「これいいな」「だめだな」というのは誰でも判断できると思うんですけど、結局短い時間の中でそれをやるのは賭けに近いじゃないですか(笑)
本当に良いものができるか分からないけど、経験上こうやったら良くなるだろうなと、いつも不安を感じながらつくっています。その辺も創作する上での大変さなのかなと思います。
──そこはつくればつくるほど経験値が得られて、なんとなく直感的に判断できることは多くなるかもしれませんね。
「あの時あれやってたからこうやれば多分できるだろうな」とかそういうのはあると思いますね。


現実で活動するミュージシャンがバーチャル空間でも活動する未来
──最後に、これからのclusterに期待していることはありますか?
こういう機能が入ればいいなというのはたくさんありますね。バーチャルライブをやるにしても、演者さんがそんなにコンピュータリテラシーがあるわけではなかったりするので、操作性についてはもっと簡略化できたらいいなというのはあります。
あとは、演者さんだけ音声同期が遅延なくできるとかそういうのが入ってくると嬉しいですね。私がライブイベントをやっているせいか「clusterでライブをやるにはどうしたらいいですか?」みたいな話がくるんですけど、BGMを流してカラオケを実際やってみたら思い切りズレまくってたということが結構あるので。音楽ライブをやる上で音楽ライブ用の操作方法みたいなのが確立してくれるといいなと思います。

──なるほど。将来的にclusterがどうなっていって欲しいかなどはありますか?
最近は現実でミュージシャンとして活動している人がバーチャル空間にきて活動するというのが増えてきているんですけど、そういうのがもっと増えていくといいなと思っています。現実でも活動するけど、バーチャルも違う表現手段として利用しますというのがもっともっと増えて欲しいなと思っていますね。
──clusterでも徐々に増えてきていますよね。ワールドをつくられている方とコラボが増えればすごく表現の幅が広がりそうです。
そういう活動がだんだん広まった時にバーチャル空間で1万人規模のライブができたらいいなというのが夢としてあるんですよね。
将来はユーザーが立ち上げたライブイベントで1万人集まるという例が出てくれば、現実と比較した時に面白くなるし、それで音楽ライブとしてもあまり遜色がない新しい体験ができるようになると思っていて、将来的にそうなっていくといいなと思っています。
──clusterであればスマホがあるからこそ、それをやれるとすごいことになりそうですね。
そうなれば、本当に現実と遜色ない新しい場所として定着すると思っているので、そういうことが将来的にできたらいいですね。
