2026年4月22日から新しく始まった月1回のcluster公式イベント「Cluster Station for クリエイター」。
clusterでものづくりをするクリエイターに特化した内容をお届けするイベントです(イベント情報はこちらのアカウントページから)。イベント内ではクラスター社のCGクリエイターの方たちが役立つ知識を発信していきます。
初回のイベントでは、「平和の礎メタバース」や「カナデビア」のワールド制作に関わったクラスター社のCGクリエイター・うってぃーさんが登場。
「ワールドやクラフトアイテム・アクセサリーの見た目の品質を保ったまま軽量化する方法」について解説しました。本記事では、イベントの内容を記事としてまとめていきます。

軽量化の基本原則は「シルエットで判断する」
軽量化をするためにポリゴン数を削減する際、最も重要な判断基準は「シルエットへの影響があるかどうか」です。
具体例として紙袋のモデルで考えてみます。全体を均一に細かく分割したモデル(左)と、必要な箇所だけに分割を入れたモデル(中)をシルエットで比較すると、両者にほとんど差がないことが分かります。つまり、シルエットに影響しない内側の分割は見た目にほぼ寄与しておらず、優先的に削減できるということです。
一方で、シルエットに関わるエッジまで削ってしまうと、柔らかい印象が失われ、全体がカクカクした直線的な印象になってしまいます。特に弧を描くような形状(紐の曲線部分など)は、ポリゴンを減らした際の影響が顕著に現れます(右)。

アバター制作で考えると、顔の鼻先、頬の膨らみなど、質感に大きく影響する箇所のエッジは残し、それ以外の部分を重点的に削減していきます。こうすることで全体のポリゴン数を抑えつつ、低ポリゴン感のない自然なモデルをつくることができます。
軽量化の全体像:3つのアプローチ
3Dモデルの軽量化には大きく3つのアプローチがあります。
- ポリゴン数の削減:特にアバター・アクセサリー・クラフトアイテムはポリゴン数制限があるため意識する場面が多い
- テクスチャの最適化:アバター・アクセサリー・クラフトアイテムはアップロード容量の制限があるため、解像度等の見直しが必要になる
- マテリアル数の削減:ワールドの負荷低減などにつながる場合もある
プロの現場ではこれらを個別に考えるのではなく、相互の関係を総合的に判断していきます。
例えば、ポリゴンを減らしすぎるとシェーディング(影やハイライトの出方)が汚くなりますが、Unlitのシェーダーを使う事でシェーディングを無視することができるため、テクスチャに影やハイライトを描き込むことで代替できる場合があります。
逆にシェーディングに影等の描画が乗るLit シェーダーなら、シェーディングが汚くならないようにポリゴン数をある程度増やす必要が出てきます。
その代わり、Litシェーダーを使用するときのようなテクスチャへの影やハイライトの描き込みを減らすことでテクスチャの解像度容量を削減することができますし、テクスチャに描き込む場合と違ってライトとの角度に応じて動的に影やハイライトの位置が変わるようになるため、動的なライティングが多い空間で馴染みやすくなります。
・Unlit→ライティングを考慮しないシェーダー
・Lit→ライティングを考慮するシェーダー
Litシェーダーの代表的なものとしてはMToonやStandard Shaderがあります
他にもUVを重ねてテクスチャ領域を節約する手法や、シェーダーのプロシージャル処理でテクスチャ自体を不要にする手法など、選択肢は多岐にわたります。

重要なのは「とりあえずこれをやっておけばいい」という万能な手法は存在しないということです。グラフィックの品質をなるべく落とさず、より軽量な手法で代替すること。リソースの最適化と言い換えてもいいかもしれません。——そのために取れる手段を増やしていくことが軽量化の本質です。
3Dモデルを立体的に見せる「法線」
Litシェーダーで3Dモデルのシルエットを考えるときに重要となるのが「法線」です。
法線とは、3Dモデルの表面に存在する「目に見えない矢印」で、その面がどの方向を向いているかを示す役割を持ちます。数学的には面に対して垂直に伸びる線を意味しますが、3DCGの世界では自由に方向を変えられるという特殊な性質があります。Blenderなどのモデリングツールでは、法線を矢印として画面上に表示し確認することができます。

法線自体がそのまま描画に使用されることはありませんが、3DCGにおける影やハイライトの付き方(シェーディング)を決めるときの計算で使用されているため非常に重要です。
私たちが画面上の3Dモデルを「立体だ」と認識するために必要な要素は2つあります。
- モデルの形状(シルエット):物体の輪郭からおおよその形を読み取る
- 影の付き方(シェーディング):明暗の変化から面の向きや丸みを読み取る
現実世界では、面の物理的な角度によって光の当たり方が決まり、自然と影ができます。しかしCGの世界では、光の方向と法線の方向の差(内積計算)によって影の濃淡が算出されます。内積とは、簡単に言えば「2つの矢印がどれくらい離れているか」を数値化する計算で、光の向きと法線の向きの差が大きいほど影が強くなります。

つまり、法線がなければCGの世界では影の計算自体ができません。しかし裏を返せば、法線さえ変えれば形状を一切変えなくても影の付き方を自由にコントロールできるということです。同じ球体でも法線の設定次第で「滑らかな球」にも「角ばった多面体」にも見えるようにできます。この性質を活用するのが、法線による軽量化テクニックです。

法線の編集による軽量化:キューブの比較
法線の編集が軽量化にどう繋がるのか、角丸のキューブを使って4パターンを比較してみます。
- 一番左:ベベルを細かくかけて法線にグラデーションを持たせた状態
- 見た目は非常に綺麗だがポリゴン数が多い。映像制作向きでリアルタイム描画には不適切
- 中左:ベベルは少なく、法線も自動計算任せ状態
- ポリゴン数は少ないが、全体が丸まって溶けたような見た目になってしまう
- 中右:ベベルは少なく、法線を手動で制御状態
- ポリゴン数は少ないのに、1番目の高ポリゴンモデルと遜色ない綺麗な見た目を実現
- 一番右:ベベルは少なく、法線は自動計算任せで、1番目の高ポリゴンモデルからベイクしたノーマルマップを適用した状態
- 見た目は綺麗だがテクスチャ1枚分のデータ容量が追加される
この中で最も軽量かつ高品質なのは中右のモデルです。法線を手動で整えるだけで、追加のテクスチャも不要なまま高ポリゴンモデルに匹敵する品質を実現できています。

ノーマルマップが不要というわけではありません。モデルの頂点法線は頂点が存在する箇所にしか設定できませんが、ノーマルマップはピクセル単位で法線情報を記録できます。そのため最適な使い分けは次の通りです。
- 大きな面の向き・ベベルのハイライト → モデル側の頂点法線で制御
- 頂点では表現できない細かい凹凸・意匠のディテール → ノーマルマップで補う
この併用により、ノーマルマップの解像度を抑えつつ(=テクスチャ容量を節約しつつ)高品質な表現が可能になります。
法線の実用テクニック3選
では、具体的にどのような場面で法線編集が活用できるのでしょうか。以下では3つのシーンで紹介します。
1. キャラクターの顔の法線調整
アニメ調のキャラクターでは、法線を手動で細かく調整することで影の出方をコントロールすることが多いです。同じ形状・同じライティング条件でも、法線の向きを変えるだけでフラットでアニメらしい影の表現が可能になります。キャラクターの横顔は特徴的な凹凸があり、物理的に正しいシェーディングをすると不自然な影が落ちてしまいます。法線をコントロールすることで、形状の魅力とスタイルの統一感を両立できます。参考として、
企業が公式配布しているキャラクター3DモデルをBlenderで開き、法線を表示してみると具体的な調整方法の参考になります。
アバターの法線調整には様々な手法がありますので、自分に合った調整方法をぜひ見つけてみてください。

2. 樹木モデルへの法線転写
ゲーム業界でのCG制作で一般的に使われるテクニックで、板ポリゴンの集合体で構成された樹木モデルに対して、球体などの滑らかな形状の法線を転写する手法です。
転写前は各板ポリゴンごとにバラバラの方向を向いていた法線が、転写後は木全体として一体感のある影の付き方になります。特にトゥーン系シェーダーとの相性が良く、影が面ごとにパキパキ割れる現象を防ぐことができます。ワールド制作で植物を多数配置する場合に非常に効果的で、作業自体も比較的簡単に行えます。


3. ハードサーフェスモデリングでの法線制御
工業製品やメカなど硬い質感のモデル(ハードサーフェス)では、エッジの処理が見た目を大きく左右します。全てのエッジをハードエッジにすると角が鋭くなりすぎて不自然になり、すべてソフトエッジにすると全体が丸まって工業製品らしさが失われます。
解決策は、平面部分の法線だけを同方向に整えることです。

上の画像はベベルを実行したエッジの法線がどうなっているのか分かりやすく比較した画像です。
左のモデルはベベルが細かく入っているためポリゴン数が多いですが、ハードサーフェスとしては最も綺麗に角のハイライトが出ます。
中央のモデルはベベルの数が少ない代わりに、ベベル面以外の広い面の両端が外に広がっていて、平坦に見えてほしい広い面が湾曲したようなシェーディングになってしまいます。そこで右のモデルのように広い面の法線を真っ直ぐに揃えることで、広い面を平坦なシェーディングに整える事ができます。
ベベル部分にはきちんとハイライトが出つつ、広い面はかっちりとした平面として表現されます。ベベルの分割がたった1つでも、まるで細かいベベルが入っているかのような高品質な見た目を実現できます。


まとめ:モデリングは「情報のバランス」である
モデリングとは形状をつくって終わりの作業ではありません。法線、テクスチャ、UVなど3Dモデルのどこにどんな情報を持たせるかという設計全体が重要です。状況に応じて最適な場所に情報を持たせることで、ポリゴン数に限らず、無駄なリソースを抑えながら高品質な見た目を実現できます。
また、Unityなどのゲームエンジンで制作する際には「自分はデータをつくっている」という意識が重要です。3Dモデルはイラストと異なり、まったく同じデータでもエンジンが違えば、まったく異なる見た目になる事ががあるからです。
Unityの描画エンジンがデータをどう受け取り、どのような処理で描画しているかを理解することで、より最適なデータをつくれるようになり、シェーダーの活用など表現の幅も大きく広がっていきます。






















法線には「ハードエッジ」と「ソフトエッジ」の2つのモードがあります。ハードエッジは、1つの頂点が隣り合う面ごとにバラバラの法線を持つモードで、面と面の境界がくっきり見えます。ソフトエッジは、隣り合う面の法線を平均化して共有するモードで、面の境界が滑らかに見えます。これらはエッジごとに個別に設定できるため、法線編集の基礎知識として押さえておく必要があります。