cluster上で大規模なバーチャル展覧会を開催してきた早蕨わらびさんにバーチャル展覧会を開催・制作することの面白さと魅力を執筆いただきました。
いつでもどこからでもアクセスできる性質と、展示空間自体も自由につくれるバーチャル展覧会にはまだ見ぬ可能性が秘められています。ぜひご一読ください!
こんにちは、早蕨わらびです。
clusterでは主にバーチャル展覧会ワールドを制作しています。
この記事では『バーチャル展覧会の可能性と楽しさ』について、私自身が実践してきた実例を交えながらお伝えできればと思います。

バーチャル展覧会とは?

バーチャル展覧会とは、一言で説明すると「インターネット上で開催される展覧会」のことです。物理的な展示スペースを必要とせず、すべてデジタルで完結するのが特徴です。
ただ、一口にバーチャル展覧会といってもいろいろあって、人によって思い浮かべるイメージが異なるかもしれません。単にWeb上で作品画像を閲覧できるものから、3DCGの空間に没入して作品を体験するものまでさまざまあります。
今回はその中でも、clusterにおける3DCGの空間でのバーチャル展覧会についてお話します。
バーチャル展覧会の可能性

2021年に、京都市立芸術大学の同期を集めて『京都市芸バーチャル展(以下、京芸V展)』という展覧会プロジェクトに取り組みました。
コンセプトは「バーチャル展の可能性を切り拓く」
当時すでにバーチャル展覧会はいくつもありましたが、その多くは物理的な展覧会が制限されたことによる代替手段としての方向性が強かったです。
そのため、バーチャル展覧会そのものの可能性に目を向けて、新しい展覧会のカタチを模索していこうという企画が少ない状況でした。

京芸V展では、より新しい可能性に目を向けた異なるコンセプトを持つバーチャル展覧会を実施することにしました。
そうすることで、バーチャル展覧会の可能性を切り拓き、もっといろんなバーチャル展覧会が生まれていってほしいと考えたからです。
その結果、4つのコンセプトのもと、全部で12個の展覧会ワールドを制作することになりました。
ここからはその実例を交えながらお話します。ぜひ、バーチャル展覧会の可能性について考えてみてください。
①いつでも、どこからでも見てもらえる

バーチャル展覧会の特徴の一つとして、いつでも、どこからでも見てもらえることがあります。
例えば、『【Vギャラ】京都市芸バーチャル展示スペース』は、京都市立芸術大学に実在するギャラリーをバーチャル空間に再現したものですが、気軽に大学に訪れられない人にもたくさん見に来てもらえました。むしろ、そういった人のほうが多かったかもしれません。
印象的だったのは、沖縄からVギャラに訪れてくださった方とお話したことです。コロナ禍でお出かけもままならない中、京都の学生の作品が見れるということに感動したと言っていただけました。これはとても嬉しかったです。
また、バーチャル展覧会は物理的なギャラリーと違って24時間いつでも開けていられますし、会期のような展示期間の制限も考えなくてもよくなります。
実際、Vギャラは2年以上経ったいまでも公開し続けており、実際に訪れていただけます。
▼【Vギャラ#01】京都市芸バーチャル展示スペース
ワールドに遊びにいくのはこちらのリンクから!
②展示空間をすべて自由につくれる
バーチャル展覧会は、展示空間をすべて自分の好きなようにつくることができます。
実際に制作をするにはUnity等の専門ツールを扱う必要があり、つまづくことも多いかもしれません。私も最初はわからないなりに調べながらワールドをつくっていました。
始めたばかりは技術的に出来ることが少ないので、なかなか自由さを実感できないかもしれません。しかし、一つずつ出来ることを増やしていくと、自分のイメージ通りに、自由にワールドをつくっていけるようになります。
ワールドが完成してはじめて、何もかも自由に設計できるんだという実感を得ました。
それでは、どのように空間をつくれるのか。京芸V展から2つの展覧会を具体例としてご紹介します。
作家が持つ世界観を個展のかたちで具現化する|『Kou展 If you meet with…』

『Kou展 If you meet with…』は、作家が持つ世界観を個展のかたちで具現化することを目指したバーチャル展覧会です。
出展イラストレーターであるKouは「人の身では抗うことが出来ない大きなものへの畏怖の念」というコンセプトのもと制作をしていました。
それを受けて空間設計では、立体的な構造をつかって大きさに対する鑑賞者の認知を操作することで、より壮大さを感じる鑑賞体験を実現しました。

例えば、通路の狭いところから広い場所へと移動させてみたり、見上げさせてみたり。鑑賞者が自分でも気づかないうちにこういった行動をしてくれるような空間にしたのです。
大きさを自由に変更できるバーチャル空間においては、絶対的な大きさにはあまり意味がありません。物理空間と違ってコストも労力もかからないために、バーチャル空間では単に大きなオブジェクトなら当たり前のように存在しているからです。
そのため壮大さを印象付けるためには、こういったギャップなどを利用して相対的な大きさを演出するという考え方がとても重要でした。
他にも建物の形状や色など、作家の個性に合わせて空間のすべてをデザインしています。
それぞれの作品に合ったコンセプト空間をつくり、新しい魅力を引き出すグループ展|『Unseen Sights』

『Unseen Sights』では、京都市京セラ美術館で展示された卒業作品をバーチャル空間で再び展示するという試みをしました。
このバーチャル展覧会では、それぞれの作品に合ったコンセプト空間をつくることで、各々の展示同士が作用して作品の新しい魅力を引き出されることを目指しました。
展示空間にアクセスすると、鑑賞者ははじめ、一般的な美術館のような空間で作品を見ることになります。
これは、京都市京セラ美術館で実際の作品を見ていない方にも一度同様の体験をしてもらうためです。

その後、別のバーチャル空間に移動し、先ほどと同じ作品を今度はアーティストが作品のコンセプトに合わせてデザインした空間で鑑賞します。

このような構造にすることで、鑑賞者の作品に対して受ける印象が変化することがあります。実際に、それぞれの空間で作品に対する印象ががらりと変わったという意見がありました。
空間によって印象が変わるのであれば、バーチャル展覧会では展示空間も含めて作品制作なのだという風に考えたほうが良さそうです。
『Kou展 If you meet with…』と『Unseen Sights』の2つに共通するように、「鑑賞者に何を体験してほしいのか」というコンセプトがあって、それを実現するために空間をつくっていくのがバーチャル展覧会です。
それは物理的な展覧会でも当然のように行われることではありますが、バーチャル展覧会ではコンセプトを実現するための自由度が圧倒的に違います。
空間のカタチ・大きさ・色・素材感・鑑賞者の動線・構成・環境音・BGMなどをすべて自分で好きなように設計して体験をつくれるのがバーチャル展覧会なのです。
③いろんなコミュニケーションを楽しめる

clusterでバーチャル展覧会を開催する大きなメリットとなるのがその「ソーシャル性」です。clusterには普段からバーチャル空間で過ごしているたくさんのユーザーがいるので、多くのユーザーに訪れてもらうことができ、バーチャル空間の中でユーザー同士で会話しながら作品を鑑賞できます。
また、『#共創展』では展示会場内に来た人が自由にブロックを構成して作品を制作できる体験をつくりました。鑑賞するだけでなく、その場で一緒に新しい作品がつくれたら楽しいだろうと考えたのです。
こういったインタラクション性のある展覧会がつくれるのもバーチャル展覧会の魅力のひとつです。
未知の可能性がたくさん眠るバーチャル展覧会の楽しさ

バーチャル展覧会の楽しみ方は人それぞれだと思います。
私はいつも、自分がつくるバーチャル展覧会によって「新しい体験が生まれるか?」を考えることに楽しさを感じています。
例えば『Kou展 If you meet with…』では、展示空間を設計する中で新しい作品をつくったりもしました。「その展示方法が実現できるならば、こういった作品をつくってみるとバーチャル空間ならではでおもしろいのでは」という意見から、いままでにない作品が生まれたのです。
ここまでお話してきたように、バーチャル展覧会には未知の可能性がたくさん眠っています。そういった可能性を取りこぼさずコンセプトに落とし込み、新しいバーチャル展覧会のカタチを実現していこうと考えるのが楽しいのです。
これからも自由な発想で新しいバーチャル展覧会の可能性に挑戦していきたいです。
バーチャル展覧会をはじめよう
最後まで読んでいただきありがとうございます。
バーチャル展覧会に少しでも興味を持っていただけたでしょうか?
もし、自分でもバーチャル展覧会をつくってみたいと思ったらさっそくはじめてみましょう。
Cluster Creators Guideにはバーチャル空間をつくるために役立つ記事がたくさんあります。
いままでにない新しい体験ができるバーチャル展覧会が、cluster上でたくさん生まれることを願っています。